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Financial Inclusion(金融包摂)とは、基本的金融サービスへのアクセスへの問題を解消し、これらのサービスを受けられるようにすることを意味する。現在、途上国を中心に世界の20億人以上の成人が基礎的な金融サービスにアクセスできず、Financial Inclusionが達成されているとは言えない。
そこで、ここでは2010年にG20が提言した「革新的なFinancial Inclusion」に注目し、金融サービスのデジタル化が金融包摂の実現にどのような役割を果たすのか。効果や課題を考察する。
1. 異業種参入による「革新的なFinancial Inclusion」へ
現在、途上国を中心に世界の20億人以上の成人が基礎的な金融サービスにアクセスできない。この状況の打開のため、近年の途上国では携帯電話、銀行業務代行サービスの積極活用など、異業種を巻き込んだ金融サービスのアクセス向上が推進されている。G20 はこれを「革新的なFinancial Inclusion(金融包摂)」と名づけ、2009年にG20 Financial Inclusion Experts Groupの発足、さらに2010年のG20 トロント・サミットにて「革新的なFinancial Inclusionのための原則」を定め、グローバル課題としての取組みを本格化している。
(参考PDF http://www.iima.or.jp/Docs/newsletter/2010/NLNo_26_j.pdf)
2. デジタル金融包摂の推進の効果と提言
革新的なFinancial Inclusion推進策の具体例としては、「デジタル金融包摂の推進」が挙げられる。これは「従来のサービスから除外されていた、あるいは十分なサービスを提供されなかった層が、デジタルを通じてフォーマルな金融サービスへアクセス・利用すること」を意味する。
♦モバイルマネーとFinancial Inclusion♦
デジタル金融包摂の推進の一例として、途上国の支払におけるモバイルマネーの影響を挙げる。下記のような無作為化評価・研究が実施されており、①家計の取引コストの削減 ②リスク共有能力、の2つのポジティブな効果が確認されている。
①に関しては、携帯電話を用いた現金給付プログラムの影響についても無作為化評価の研究(Aker, Boumnijel,McClelland and Tierney 2011)がなされ、実施機関側の実施コストは勿論、受給者側の現金給付におけるコストも削減されたことが示された。さらに、受給者のコスト削減は支出項目の多様化や劣化試算の減少、収入源となる作物(特に女性により栽培される換金作物)の多様化、などにつながることも確認されている。
②に関しては、ケニアにおける研究(ジャック&スリ、2014)を挙げる。モバイルバンキングのM-PESAユーザと非M-PESAユーザが大きな負の所得ショック(深刻な病気、失業、家畜の死、収穫・事業の失敗など)を受けた際の、家計消費への影響をが調査された。結果、M-PESAユーザは負のショックを吸収できた一方で、非ユーザは平均7%の家計消費を低下させた。これは、友人・家族間で負の所得ショックが発生した際、M-PESAユーザであれば送金サービスを通してリスクを共有(融通)できたことを示唆する。加えて、他の2研究(Bluemenstock、Eagle, and Fafchamps 2012)(Batista and Vicente 2012)では、モバイルマネーへのアクセス向上が送金意思を向上させるという結果も観察されている。
モバイルマネーに加えて、生体(指紋など)認証による本人確認技術の導入も、信用市場における情報の非対称性やモラルハザードなどの問題を軽減させている。
世界銀行のマラウィにおける現地研究(Gine, Goldbuerg and Yang 2012)によると、融資の際の本人確認に指紋認証を採用したところ、貸し手の融資拒否能力が向上し、不履行率が下がる結果が観察できた。これは貸手が、指紋による本人確認を通し、借手が過去に不履行経験があるか否か返済履歴を参照できるようになったためである。また、本人確認精度の向上は、借手の逆選択やモラルハザード問題も解消した。
上記のようなデジタル金融包摂モデルを推進するためには①電子取引のプラットフォーム ②販売代理店(リテールエージェント) ③端末 の3要素が必要とされるため、途上国におけるICTの導入に関しては上記3点の普及・進展度をはかることが重要である。
(西田一平)