難民とは?
まず、「難民」とは誰のことを指すのでしょうか?
1951年の難民の地位に関する条約では下記のように定義されています。
人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者
出典:UNHCR「難民の地位に関する1951年の条約」
https://www.unhcr.org/jp/treaty_1951
他方で、難民と近しい言葉として「移民」があります。移民の定義は様々ですが、「理由に関係なく、居住国と異なる国へ移住した人々」という認識が一般的です。
つまり難民とは、移民の中でも、「迫害などを受ける恐れがあるという理由で国籍国以外の国に移住せざるを得なくなった人々」といえるでしょう。
世界から見た難民の現状
安全と平和。今日も何事もなく1日が終わり、明日もまた”普通”の日が来る。それが当たり前。戦後の日本に生まれ育った皆さんはそう思う方がほとんどではないでしょうか。しかしこれは人類史的にも国際情勢的にも、とても幸運と言わざるを得ません。
紛争に巻き込まれ、家族や友人が目の前で銃殺されて財産も家も何もかも捨てて体ひとつで祖国を脱出した人。テレビの街頭インタビューで政府に批判的な発言をしたことがきっかけでいきなり憲兵に拘束され、全身に生々しい傷が残るような激しい拷問を受けた人。そうした理由で祖国を逃れざるを得ない人たちが2020年末時点で8,240万人います(UNHCR「数字で見る難民情勢」)。
日本の難民をめぐる現状
こうした生命の危機を乗り越え、「どこでもいいから早く国外へ」と政府に拘束される恐怖におびえながら旅券を手配します。日本は外国からの旅行客を呼び込むインバウンドを推進していたこともあり、結果的に日本が最短で行ける国になることが増えています。
しかし、現在の日本は難民に温かい国とは言えません。2020年における日本の難民申請者数は3,936人。それに対して認定数はわずか47人と、認定率約1.2%です。2020年は新型コロナウィルスの影響もあり、そもそも申請者数が前年より6,439人減少しています。なお、前年の2019年は、難民申請者数10,375人に対し認定数は44人と、認定率は約0.4%に過ぎません。
これらの統計数値からもはっきりとしていますが、下記のような実際の事例からも日本での難民認定申請のハードルが高いことが伺えます。
・選択の余地なく日本に来たにもかかわらず、空港で日本国に助けを求めた時点で国内住居地が無かったり、短期滞在の15日を過ぎているなどでビザに不備があると「逃亡の恐れあり」の不法入国者扱いで出入国在留管理庁の収容施設に収容される
・最低限の荷物で命からがら逃げてきているにもかかわらず、収容施設に収容された場合は、移動の自由なし、インターネット環境なし、外部との連絡はテレホンカードを使った電話のみ、という状況で自分が難民であることを証明する証拠(日本語訳付きで。翻訳費用は申請者負担)を集めて、日本入国から6か月以内に難民申請しなければならない
・通訳を通すため細かい表現は自分でコントロールできないにもかかわらず説明がわずかでもぶれると「供述に一貫性がない」と一蹴される
・認定までの待機期間は平均で2年半。収容施設に収容された場合、難民認定の審査に係る結果が出るまで、難民不認定になった場合に強制送還される恐怖におびえながら無期限に収容される。
難民認定後の自立を困難にさせる、日本社会の壁
NPOなどの力を借りて難民認定手続きが完了し、以下のいずれかの認定を受けると、在留資格が付与され、就労など一定の活動をすることが認められます。
・難民認定 ※在留資格は「定住者」
・人道的配慮による在留特別許可 ※在留資格は「特定活動」
しかし、認定後も日本社会で自立して生きていくことは容易ではありません。
日本社会への参加を阻む第1の壁が「日本語」です。特にいわゆる総合職と呼ばれる正社員採用においては、一般的に採用の目安として多くの日本企業が日本語能力試験(JLPT)のN2以上の日本語力を求めているといわれています。資格がないと書類選考で不採用にされてしまうことも多いようです。
そして第2の壁が「メンバーシップ型雇用」です。近年変化が起きつつあるとはいえ、依然として日本企業では、ジョブ型雇用に基づく「応募者は何ができるか、それは自社のニーズを満たすか」という観点よりも、「応募者は人物的に自社の求める人物像に合致するか」という観点から、人物重視で選考する傾向が強いです(なお、私は本業で人事部員ですが「スキルは優秀だけど人間的な魅力を感じない」という感覚的な理由で役員面接で不採用、ということも人事仲間からよく聞きます)。
また、日本企業の就職においては、日本人以外が総合職に応募してくることが想定されていないケースがほとんどです。面接や履歴書、エントリーシートなど、基本的に日本語で対応しなければならないのですが、その『お作法』は明文化されておらず、日本人の就活生でも苦戦します。
日本語を習得したばかりの難民にとって、志望動機や自己PRを、簡潔かつ説得力ある文章で作成する、というのは非常に高いハードルとなります。
慣れない日本語で一生懸命に書いたエントリーシートや履歴書であっても誤字や脱字が多かったり、質問の意図に正しく答えていない等で、面接に行きつく前に書類選考で不採用になってしまうことも少なくありません。
私たちが就労支援としてこれまで伴走支援してきたのは、UNHCR等から難民向けの奨学金を受け、大変な努力の末に日本の大学を卒業した難民の学生の方が中心でした。基礎学力や英語力は素晴らしいレベルで、人物的にも多くの苦労を努力で乗り越えてきた、優秀な方々です。
にもかかわらず、こうした日本の就職での見えない壁にぶつかり、目指していた将来に向かうことができなくなってしまうことが実際に起きています。こうした課題の解消に向け、私たちは日本で就職活動を行なう難民学生の方向けに情報発信を行ってきました。
難民が日本で自立していくために
世界的に増え続ける難民に対し、その受け入れ国は難民を生み出している国の近隣諸国に偏っています。結果、世界の難民の86パーセントが開発途上国で受け入れられているという事実があります。
【難民受入数上位5か国(2020年度)】
トルコ :370万人
コロンビア:170万人
パキスタン:140万人 ウガンダ:140万人
ドイツ:120万人出典:UNHCR「数字で見る難民情勢」https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2020
こうした状況に対して「難民危機に対し、世界で責任を分担すべき」との考えから2018年には国連総会で「難民に関するグローバル・コンパクト」が採択されました。今後は日本においても第三国定住の拡大や留学生を含む受け入れの拡大等が進むといえます。しかし、ただ受け入れを増やすだけではなく、彼らが日本社会の中に溶け込み、社会の一員として生きていけるよう、環境を整えることが大切なのではないでしょうか。
私たちLIP難民プロジェクトでは、日本で暮らすこととなる難民の方々が日本社会の中で自立していけるよう支援を行なっています。
大変な苦労をして日本で難民認定を受けることができたのに、日本語が原因で就職できない。そんなことが起こらないよう学習の機会を提供すること。
難民の学生の方が日本の学生と同じだけの情報を持って「日本の就活」に取り組めるよう、伴走すること。
そして、日本社会の中で自分が望む未来に向かって進んでもらうこと。
私たちLIP難民プロジェクトは、活動を通してわずかばかりであってもそのための力になれればと考えています。
執筆:向井大輔(Living in Peace)