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ある農村に、明日の食べることにも苦労する女性がいた。彼女は銀行に行ったこともお金を借りたこともない。ある日、彼女はマイクロファイナンス機関のローンオフィサーに出会う。お金を融資してもらい、小規模な事業を始める。月に何度も訪ねてくるローンオフィサーから直接金融教育や経営指導も受け、事業は軌道に乗り、彼女の生活は劇的に変わった―――。 というのが、マイクロファイナンスのよくあるストーリーだ。今、このストーリーがアフリカでは変わろうとしている。
発端は、携帯電話の普及だ。未だに飢餓で苦しむ人が多いアフリカで携帯電話? と、意外に思う人もいるかもしれない。ところが、アフリカでは電気のないような田舎にも携帯電話が普及しているのだ。たとえば、ケニアでの普及率は9割に近い [1]。主な理由としては、携帯電話が安価になったことと、携帯電話会社がプリペイド式を一般化し料金を下げたことが挙げられる。ちなみに、電気のない村で充電はどうするのかというと、発電機や太陽電池を使う。
インフラの不整備と人口密度の低さ。ふたつの課題を携帯電話が解決
アフリカは、マイクロファイナンス機関の浸透率がラテンアメリカやアジアに比べて低かった[2]。その主な要因はインフラ整備の遅れと人口密度の低さだ。マイクロファイナンス機関は「高コスト低リターンの薄利多売」の事業をしているので、運営コストを賄う為には一つの支店が受け持つ顧客数を増やす必要がある。しかし東アフリカは都心部を除くと、一つの村から近隣の村までが遠く、広大な土地にポツポツと村が点在しているような状況だ。マイクロファイナンス機関のスタッフが各顧客とコミュニケーションを取るために訪問していては、移動コストが嵩む。さらに、村から村への移動の道路が整っていない為に、移動手段用に車両を購入しなければいけないなど、運営コストを圧迫する。
そこで、マイクロファイナンス機関は通信会社とタッグを組み、携帯電話を使って送金するサービスを開始した。ケニアでは大ヒットとなり、成人人口の3割が利用している[3]。なお、ここでいう携帯電話とは、iPhoneのような高価なスマホではなく、メッセージだけが送れる一昔前の機械を指す。送金はメッセージを打つだけでできるから、どんな携帯電話でも対応可能なのだ。この送金サービスを応用し、マイクロファイナンス機関は移動コストを削減しながら、顧客を確実に増やしている。
さらに、融資だけではなく他の金融商品の提供も始めている。ある機関は、融資する際に必要となる信用情報を携帯電話の支払い状況から把握し融資額を決めたり、干ばつや洪水に苦しむ農家には保険サービスも提供したりしている[4]。
携帯電話は本当にマイクロファイナンスの有効ツールなのか?
携帯電話によって、マイクロファイナンスには明るい未来が約束されたのか。ここで、ひとつ懸念するのは、マイクロファイナンスとは人と人が繋がって成立するpeople’s businessであるという点だ。担保などを持たない貧困層を顧客対象とするマイクロファイナンスは、顧客との信頼関係の度合いが返済率へ大きく影響する。携帯電話ばかりに頼っていると、その返済率が悪化するかもしれない。もちろん、対面というアナログのコミュニケーションが善でデジタルのコミュニケーションが悪、という単純な話ではない。しかし、営業経験のある人ならわかるかもしれないが、電話だけで営業をするよりも直接会って話をした方が顧客と信頼関係を築けることは多いのではないだろうか。
一方で、機関は携帯電話というテクノロジーを業務効率化やコスト削減のために使い、その分で生まれたリソースをさらなる貧困層への顧客拡大や新しい金融商品の開発等に活用することができる。携帯電話を単なるコミュニケーションツールではなく、新たなテクノロジーとして日常業務に取り入れることにより、マイクロファイナンスの可能性を広げられるのだ。この点では、携帯電話により、マイクロファイナンスは飛躍的に進化し得ると言える。
Text & Photos/Koji Arisawa
【参照】
[1] Kenya’s mobile penetration hits 88 per cent, http://www.ca.go.ke/index.php/what-we-do/94-news/366-kenya-s-mobile-penetration-hits-88-per-cent
[2] Page 11, Figure 1.1: Account penetration, http://documents.worldbank.org/curated/en/187761468179367706/pdf/WPS7255.pdf#page=3
[3] Page 41, http://documents.worldbank.org/curated/en/187761468179367706/pdf/WPS7255.pdf#page=3
[4] How M-Shwari Works: The Story so far, http://www.cgap.org/publications/how-m-shwari-works-story-so-far