Living in Peaceは、社会的養護のもとで暮らす子どもたちを対象とした、給付型の奨学金事業に取り組んでいます。
進学への高い経済的ハードル
社会的養護下の子どもたちは、「進学しづらく、中退しやすい」状況におかれていると言われています。
たとえば児童養護施設出身者の高校卒業後の大学進学率は、全国平均「74.1%」に対して「30.1%」と、40%以上低くなっているのです。また、中退率も全国平均に対して約6倍と、非常に高くなっています。
進学率 | 中退率 | |
全国平均 | 74.1% | 2.7% |
児童養護施設出身者 | 30.1% | 13.6% |
日本学生支援機構の給付型奨学金が開始されたこともあり、最近の調査では進学率が40%を超えています。(出典:NPO法人ブリッジフォースマイル「退所者トラッキング調査2023」)
児童養護施設に暮らす子どもたちは、高校卒業後には原則として施設を退所することになっています。そのため大学に進学する場合には、家族からのサポートがほとんど望めない状況で、学費や生活費をまかないながら学業を続けなければなりません。
学費は奨学金で補えるものの、住居費をはじめとする生活費は不足するケースが多く、アルバイトでも補えない金額については、高校生の間に貯金をして準備しておかなければならないのです。
年間約 80万円の給付型奨学金を提供しています
そこで私たちLiving in Peaceは2015年より、いただいた寄付金をもとに、児童養護施設を出て進学を希望する子どもを対象に、住居費として月々60,000円の返済不要(給付型)奨学金を支給しています。
奨学生Cさんの声 いつも奨学金をありがとうございます。私は今、大学で経済学を学んでいます。今まで触れたことのない分野なので難しいです。単位を落とさないように頑張っていきたいです。アルバイトをしていて金銭に余裕が持てるように頑張っています。 しかし、欲しいものが多くあまり貯金ができていない気がします。それでも自由に使えるお金があるだけで心にも余裕ができます。大学生になって時間を好きなように自由に使えるようになりました。 朝の4時の散歩は楽しいです。
また、奨学生が後に続く子どもたちのロールモデルとなり、大学進学の希望やその先にある将来の夢を持ちやすくするために、奨学生と施設の子どもたちの交流の機会を設けるなどの取り組みも行っています。
奨学金事業の開始以来、奨学生の出身施設では実際に進学者が増加しています。また「施設にいる頃から奨学生と交流することで、進学してみたいと思うようになった」という子どもたちも増えていることから、一定の成果が見られていると考えています。
お金だけではないサポート体制
一方で、残念ながら奨学生のうち数名は卒業を迎えることなく、退学という選択を余儀なくされている現実があります。理由は病気療養や資金ショートなど、さまざまです。
こうした現状を踏まえ、Living in Peaceは2017年より給付型奨学金に加え、入学後の心理面におけるサポート体制を整備するとともに、将来のキャリア構築支援の一環として「フェローシッププログラム制度」を導入しました。
フェローシッププログラムは、奨学生に一定期間Living in Peaceの活動に参加してもらい、私たちと一緒に活動してもらうことで、奨学生とのコミュニケーション機会を増やし、奨学生の悩みやトラブルの早期発見を行い、継続的支援を行うことを意図したプログラムです。
フェローシップ参加者Aさんの声 大学進学後、1年生から2年生にかけてフェローシッププログラム生として活動していました。活動としては、週1回のミーティング参加に加え、論文の輪読会やイベントの運営にも携わりました。力不足を痛感することもありましたが、それ以上に周りのメンバーの温かさにとても励まされました。 請け負った仕事がスムーズにできない時も、いつも周りがサポートしてくれてなんとかやり遂げることができました。LIPには各業界のプロフェッショナルが集まっていて、いろいろなアドバイスを得ながら経験を積んだことで、自分自身成長することができたと感じています。
2020年4月1日より、大学や短期大学、専門学校などの授業料・入学金の減免と返済不要の給付型奨学金を支給する「高等教育の修学支援新制度(授業料等減免と給付型奨学金)」がスタートしたことを踏まえ、Living in Peaceは2021年度以降の新たな募集は行わず、支援中の奨学生に対するサポートに注力することにいたしました。
上記のフェローシッププログラム導入の背景からもわかる通り、社会的養護のもとに生活する子どもたちのキャリア上の困難は、金銭面さえ解決すればよいわけではありません。
困難を抱えた子どもたちが目標を成し遂げるために本当に必要なサポートとは何かをあらためて議論し、引き続きさまざまなアプローチから奨学生をサポートして参ります。